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東京家庭裁判所 平成6年(少)102720号 決定

少年 D・N(昭50.9.8生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤2袋(平成7年押第97号の1)を没取する。

理由

(犯罪事実)

少年は、

第1  公安委員会の運転免許を受けないで、平成6年5月14日午後11時50分ころ、東京都足立区○○町××番先付近道路において、第一種原動機付自転車を運転した。

第2  平成5年3月ころ、Aに対し、大麻を買うように頼んで現金5000円を渡していたが、自分が知人から借金の返済を迫られたことから、この金を返してもらおうと思って、平成6年10月29日午後10時50分ころ、A方へ行ってAの帰宅を待っていたところ、同日午後10時55分ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番××号○○駐車場において、帰宅してきたA(当時17歳)に対し、「てめい。A。この野郎。」などと言って、持っていた洋傘の柄でAの左肘を1回殴り、さらにAの襟首をつかんでA方玄関前まで約10メートル連行し、そこでも、洋傘の柄でAの背部を1、2回殴る暴行を加え、Aに対し全治約7日間を要する左肘部及び背部打撲の傷害を負わせた。

第3  法定の除外事由がないのに、平成6年12月27日ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番××号自宅居室において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を、火であぶって煙を吸う方法により使用した。

第4  法定の除外事由がないのに、平成7年1月17日ころ、東京都葛飾区○○×丁目××番××号自宅居室において、覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパン若干量を、火であぶって煙を吸う方法により使用した。

第5  みだりに、平成7年1月18日午前8時29分、東京都葛飾区○○×丁目××番××号自宅居室において、覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンの結晶0.358グラム(平成7年押第97号の1は鑑定残量)を所持した。

(法令の適用)

第1の事実について、道路交通法118条1項1号、64条

第2の事実について、刑法204条

第3及び第4の各事実について、覚せい剤取締法41条の3第1項1号、19条第5の事実について、同法41条の2第1項

(処遇の理由)

1  関係各証拠によれば、少年は、平成4年11月高校を中退した後、父親の仕事の手伝い、寿司店でのアルバイトなどをしていたこと、平成5年3月ころから8月ころまでの間に大麻を4、5回吸ったことがあること、平成6年5月14日第一種原動機付自転車を無免許運転したこと(第1の事実)、この事件について家庭裁判所から再三呼出しを受けていたのに不出頭を重ねていたこと、同年6月ころ初めて覚せい剤を使用したこと、同年9月上旬ころ初めて自ら覚せい剤を買いに行ったこと、同年10月ころからは仕事や外出もしないで自宅の居室に閉じこもりがちな生活を送っていたこと、同月29日傷害事件を起こしたこと(第2の事実)、同年12月27日訳の分からないことを怒鳴りながら警察に出頭したこと、この日提出した尿から覚せい剤の反応が出たため、平成7年1月18日警察が少年宅に行ったところ、少年居室から覚せい剤が発見され、少年が再度提出した尿から、再び覚せい剤の反応が出たこと(第3ないし第5の事実)、このころはほぼ1日おきに覚せい剤を使用していたこと等の事実を認めることができる。

以上の事実及び少年には交通前歴等が5件もあることをも併せ考えると、少年の規範を守ろうという意識はかなり弱いものであると認められる。また、少年は、覚せい剤を止めるつもりだったと主張しているが、訳の分からないことを怒鳴りながら警察に出頭したり、警察で尿を提出した後も覚せい剤の使用を頻繁に続けていた状態であり、薬物に対する親和性、依存性も急速に生じている。

2  少年に対しては、生活態度を改善させるとともに、薬物の害悪を徹底的に教えて、薬物に頼らないでもいいような自信を付けさせたり、適切に感情を統制する力を養うことが必要であると考える。

また、少年の保護者は、上述のような少年の生活、特に第1の事件についての調査呼出しに応じないことや、仕事もしないで自宅に閉じこもるという異様な生活に対して、適切な対策を講じることもできなかった経緯があり、その監護能力には不安がある。したがって、在宅のままでは更生を期待することはできないと思われる。

3  以上の諸事情を総合考慮すると、少年の更生のためには、強力な矯正教育を長期間行うことによって、薬物や規範に対する教育を徹底させるとともに、生活態度を改善し、自信を付けさせたり、適切に感情を統制する力を養うことが必要であると考える。

また、鑑別結果通知書(追加)によると、拘禁反応あるいは覚せい剤乱用後の気分易変状態のため、より過敏でひがみっぽく、ささいなことでいらいらしやすくなっており、自傷行為をしたり興奮状態に陥りやすい旨指摘されている。したがって、まずは医療措置を優先させて、医療措置終了後中等少年院で教育することが相当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を医療少年院に送致し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤2袋(平成7年押第97号の1)については、判示第5の犯罪を組成する物で本人以外の者に属しないから、少年法24条の2第1項1号、2項本文を適用して没取する。

(裁判官 河原俊也)

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